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美食探訪dancyu gift 009紀州名物のなめ味噌は、夏野菜の保存食だった御坊の径きんざんじ山寺味噌麹をつけた大豆、米、麦に混ざった瓜、茄子、紫蘇、生姜。「径山寺味噌」の仕込み樽の中は宝石箱のように美しかった。一晩塩漬けにされた瓜と茄子。これらが径山寺味噌の主な具になる。人・野村太兵衛さん。野村さんは、他の蔵が機械化を進めるなか、頑として昔ながらの製法を変えずにいるつわものだ。ここでは全ての工程を手作業で行い、国産の旬の素材だけを使用している。鎌倉時代の製法だから無添加なのはいうまでもない。「私はね、自分が一番うまいと信じるもの以外はつくりませんよ」 強い目をして、スッパリと言い切る。 堀河屋野村の径山寺味噌作りは、非常に手間がかかる。まず北海道産のコクのある大豆を、薪を使った焙ほうろく烙で煎って、唐とうみ箕で皮をとり、石臼でひきわりにする。それに水でふやかした大麦をあわせて蒸し、麹をつける。 醤油発祥の地として知られる東紀州に、茄子や瓜といった夏野菜をたっぷり盛込んだ「漬け物のような味噌」がある。鎌倉時代に中国から伝わった径きんざんじ山寺味噌である。のちに金山寺味噌ともよばれるこの味噌は、醤油が生まれるきっかけになった味噌だというから、その功績たるや絶大である。 さて、その径山寺味噌を、鎌倉時代の製法そのままに現代に伝えている貴重な蔵である。和歌山県御坊市に代々続く、堀河屋野村だ。 その堀河屋野村は、江戸の風情を思わせる格子戸の建物が道路に面して、その裏手が蔵になっていた。蔵を案内してくださったのは、17代目にあたるご主格子窓に立派な瓦屋根。堀河屋野村の建物は江戸の風情を色濃く残している。建物の前に立てばもういい香りがする。

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